1. 奪われた「朝」
かつて、朝は一日の始まりを告げる爽やかな時間でした。しかし、その日は突然やってきました。
目が覚めているのに、体が布団に吸い付けられたように動かない。鉛を流し込んだような倦怠感。
「だらけているだけじゃないか」
自分を奮い立たせようとしても、指一本動かすのに凄まじいエネルギーを必要とするのです。朝ごはんが作れない、洗濯機が回せない。当たり前の家事が「不可能なミッション」へと変わっていきました。
2. 逃げ場のない痛み
追い打ちをかけるように、身体が悲鳴を上げ始めました。
特に酷かったのは脚の痛みです。マッサージをしても、温めても、湿布を貼っても、しつこく、いつまでも続く鈍い痛み。それに加えて、頭を締め付けるような毎日の頭痛。
病院へ行けば何か原因がわかると信じていました。けれど、検査結果はいつも「異常なし」。
「こんなに痛いのに、どこも悪くないなんて嘘だ」
誰にも理解されない痛みを抱え、妻は孤独の深淵へと沈んでいきました。
3. ドクターショッピングの果てに
内科、整形外科、婦人科、心療内科……。
「もっと名医がいるはずだ」
「この診断は間違っている」
藁をも掴む思いで病院を渡り歩くドクターショッピングが始まりました。しかし、新しい診察券が増えるたびに、妻の心からは「信じる力」が削り取られていきました。
医師の言葉も、薬の効果も、そして私の励ましさえも、今の彼女にとっては「自分を否定するノイズ」にしか聞こえなくなっていたのです。
4. 壊れていく心
身体の不調は、やがて心の形を変えていきました。
理由もなく涙が溢れ出し、一度止まらなくなると数時間も泣き続ける。
「私なんていないほうがいい」
そんな希死念慮が口から漏れるようになったとき、
私は事の重大さを本当の意味で悟りました。
ネガティブな思考は、やがて家族への「恨み」や「イライラ」として爆発します。あんなに優しかった妻が、私に当たり散らし、暗い顔で部屋に閉じこもる。
そこには、私の知っている妻は
もう一人もいませんでした。